社長メッセージ

社長メッセージ

地域と共に新しい価値を創造する

今回は対談形式でインタビューを実施しました。

「人のため」「地域のため」になる企業こそが持続的成長を実現する

インタビュアー:内田まさみ(以下内田)
これまで数年にわたり御社の取材をしてきましたが、野原社長はいつも綿半の存在価値を意識されているように感じます。2027年3月期を最終年度とする中期経営計画の基本方針は「地域に寄り添い地域とともに新しい価値を創造する」です。これはまさに社長の考える綿半の存在価値ではないでしょうか。

代表取締役社長:野原勇(以下野原)
先日、ある新聞社の講演会で「会社の存在価値」について議論する機会がありました。経営者、特に創業者はまず第1段階は「金持ちになりたい」「有名になりたい」など自分を優先して事業を興す方が多くいらっしゃいます。そして次は家族を優先するようになり、そして一族の繁栄を考える。しかし、自分の欲だけでなく、第三者への思いを持つことが最も大切だと考えています。例えば、幼いときに助けてもらった経験から「私も同じように人を助けたい」と医者を志すなどです。第三者的な思いがあるほうが成長曲線としては価値が高く、その成長はより長く続く傾向にあります。これは、人間の存在価値が「人のため」にあることの表れであり、企業にとってもこれは同じだと思っています。

内田
御社の創業の思いにも、「地域貢献」として第三者的な思いが込められていると思います。これには何か背景があるのでしょうか。

野原
当社には創業から400年を超える長い歴史があり、創業者は織田信長の家臣でした。本能寺の変ののちに身を寄せた長野の飯田で、子どもたちを集めて寺子屋を始めました。その後、地域に産業を興すために綿作りを始め、これをさらに成長させるため、飯田の外へと販路を拡大し、地域経済の活性化を図りました。さらに、綿の卸し先で見つけた鉄やセメントといった、新たな時代の素材を今度は飯田に取り入れることで、地域の外から新たな商材を取り入れる流れも作り、地域経済を豊かにしていきました。時代や商品は変わっても、「地域の発展を支える」という根底にある思いは揺らぐことがなかったのです。ですから、基本方針「地域に寄り添い地域とともに新しい価値を創造する」は、私たちの存在価値そのものだと言っていいでしょう。

原点回帰

野原
地域に寄り添って事業展開をしてきた綿半ですが、その屋台骨が揺らいだこともありました。2000年代初頭、当時の長野県は地元で開催したオリンピック後の景気低迷に加え、いわゆる“脱ダム宣言”によって、セメント等の売上も激減しました。当社も創業の地である長野県の営業所を次々に閉鎖して、地域外へとビジネスの場を移していかざるを得ない状況でした。私が入社したのはまさにこの時代です。

内田
地域の外に出た後は福祉で地元に貢献していたと聞いています。

野原
私が入社してまず思ったのは、「400年以上も続いている企業なのに、どうしてこんなに財務的に苦しいのだろう」ということでした。福祉のためにお金を使っていたことも一因でしたが、財務を改善しながら当社の持続的な成長を実現する必要がありました。そこで「地域のため」「人のため」という創業の思いに立ち戻り、かつ、政治情勢や景気に簡単に左右されることのない、強固な事業ポートフォリオを構築させなければならないと考えました。

内田
社長の入社を機に、地元から外へ、外から地元への双方で地域の発展を軸にした事業展開に戻したんですね。

野原
そうですね。まずは、公共事業の減少をきっかけに厳しくなった建設業の立て直しを図りながら、小売業に注力しました。活魚は市場から店舗へ直送し、新鮮な野菜は日本各地の生産者から直接仕入れたりすることで、地元の方々に新鮮な食材を安く提供するとともに、仕入先のビジネスも活性化できる仕組みを整えました。また、M&Aなどで、地域の木材などを使った住宅を全国で建築できる仕組みも整えました。地元から外へ、外から地元への双方での流通経路が確立され、生鮮食品をはじめ木材、電化製品、医薬品と、消費者の生活に必要なモノを幅広く流通させることができるようになりました。4月には飯田物流センターが稼働し、地元企業との共同仕入・共同配送も開始しました。

点から線へ、線から面へ

内田
社長はよく事業展開を「点から線へ、線から面へ」と言っていますね。その言葉のとおり、毎年新たな企業がグループに加わり、ホームセンターやネット通販、住宅、ドラッグストア、動物病院などなど、最初は一つひとつの「点」にしか見えていなかったビジネスが、グループの中でつながり、一本の「線」になってきたように感じます。そして社長にはその「線」の先にある、「面」が見えているはずですね。社長が見ている綿半の「未来」はどのような形なのでしょうか。

野原
品質の高い日本製品は海外で人気なので、農作物や木材を6次産業化し、綿半ブランドとして海外へ輸出することも視野に入れて、事業展開をしています。

内田
最近、養豚業まで始められましたね。海外の輸出を見据えてこのような事業を始めたのでしょうか。

野原
日本は、1次産業守るための支援策は充実している国ですから、いいモノを作る環境は整っています。そして、私たちのグループには流通・販売する仕組みがあり、自社で生産したモノや商品は自社店舗で販売することができます。さらに、大量に生産できれば、海外へも流通させることもできるでしょう。地元から外へ、外から地元へという双方向の流れをより活発にすることができれば、事業の採算性はより向上すると考えています。

テクノロジーも取り入れ、次の成長ステージに

内田
ただテクノロジーの変化は目まぐるしいですよね。養豚業においても豚舎ICT化して、温湿度や給水設備、豚の様子を遠隔でモニタリングし、省力化、省人化を実現していますよね。

野原
養豚業も昔ながらの養豚ではありません。この仕組みでは、豚舎の豚は人間が触れることがないので、感染症などの病気を持ち込むリスクも減り、豚のストレスも低減できます。豚舎には木材を用い、太陽光発電も設置します。飼料には小売店舗や食品工場で出た食材のかす(残渣)を活用しています。また糞は堆肥化して飼料米の肥料に利用したりするなど、環境に配慮した循環型施設になっています。このような環境で育てた豚の肉を将来的には自社店舗で販売し、年間で6,000頭出荷する計画です。物流においては、今後も加速するであろう労働力不足に備えて、物流センターでのドローンによる配送や、技能実習生も受け入れられる体制などを視野に入れた検討を進めています。

海外展開へ加速

内田
先程出た海外への輸出の話では、最近では日本の住宅メーカーも成長の軸足を海外へ移しています。綿半グループも地元、長野県産の木材を活かした家を海外に輸出するということもできそうですね。

野原
現在既に貿易事業において、海外ネットワークを構築しているので、国内に留まらず、海外にも幅広く事業展開することは常に視野に入れています。4月1日には綿半建材(征矢野建材)がグループ入りしました。綿半建材は木材の製造機能を有しているので、長野県産の木材を加工・製造して輸出することも検討しています。

地域と共に発展し続ける綿半

内田
綿半の今後が楽しみです。最後に社長が考えている地域の可能性ついて聞かせてください。

野原
長野県のきれいな「水」を貴重な資源として、ビジネスチャンスを得られるのではないかと考えています。今、日本各地に半導体産業をはじめとして多くの工場が建設されています。それらの先端技術の工場に欠かせないのは、きれいな「水」です。それを持つ長野県に国内外の企業の生産工場を誘致することもできるでしょう。現在、信州大学では「地球規模の水・エネルギー問題を解決する世界拠点」を目指し、水処理技術や水由来の水素生成技術などの研究を強化しています。生産拠点としても長野県が注目されるのは間違いないと思っています。

内田
景気などの外的影響を受けにくい強固な事業ポートフォリオを持ち、地元を中心とした幅広い地域に新しい価値を提供し続ける、それが綿半の姿なのですね。「あのときの話がここに繋がるんだ」という、点から線、線から面へと繋がっていく、進化を続ける綿半の未来が楽しみです。これからも期待しています。